物流・在庫管理の川上から川下まで

自分の業務経験を通して、物流・在庫管理について学んだことや物流関連のニュースなどで気づいたことを記していくブログです

食材在庫管理の3つのポイント ~①精度の高い販売予測~

前回の最後に食材在庫管理における重要な3つのポイントを挙げた。

①精度の高い販売予測
②確実な棚卸=在庫数量の把握
先入れ先出しの徹底

今回は①の販売予測について書いてみたいと思う。

■販売予測に必要な要因

3つのポイントに挙げた中で、実はこれが一番難しいと思われる。完璧に実行するのはほぼ不可能といっても過言ではない。販売予測というのは、実に多くの要素によって変動する。自分の店舗のプロモーションのかけ方によって変動するのはもちろんのこと、季節、曜日、その日の天候や気温、周辺のイベントや近隣の店舗のセールなどなど、自店舗でコントロールできない様々な要素も変動要因として関係してくる。
予測をするためには、理屈上はこれらの関連要因をすべて考慮に入れて予測をするのが正解なのだと思うが、現実的にはそれは不可能であろう。そもそも、目に見える要因以外にも自分たちで気づいていない要因があるはずであり、販売予測に影響を与えるすべての要因をあぶりだすことが不可能だと考えられるためである。

■AIを使えば完全な販売予測は可能か?
近年ではAIの進歩は目覚ましく、さまざまな場面での活用が一気に進んでいることもあり、このような販売予測にAIを活用する研究も様々な企業や機関で進んでいるものと思われる。おそらく、一定レベルまでのAIによる予測は今後どんどん進んでいくだろうし、それによって徐々に精度が上がってくるのは間違いないとは思うが、ではAIを使えばいずれは的中率100%の予測が可能になるかといえば、おそらくそれは無理だと思われる。
AIといえども、予測をするための前提となるデータの蓄積がなければ予測を成り立たせることができないし、一般的には膨大な量のデータ蓄積がないとAIの予測というのは成り立たない。その前提となるデータは前段で書いたように実に様々な要因が考えられ、そのすべてをデータ化してAIに読み込ませることは難しいためである。販売予測という研究分野の中でAIの活用が広がっていくことは確実だと思うが、AIが我々にとって満足のいく成果を出してくれるかどうかというと、個人的には疑問を感じている。

■大切なのは販売予測の「幅」
とは言え、AIを使おうが使うまいが、在庫管理をする上で販売量の予測は欠かせない。実務で必要な販売量の予測をするためにも予測の「幅」が重要になってくる。
例えば、1日にだいたい100個前後のハンバーガーを売っている店があるとしよう。この店の翌日の販売数を予測するのに、必ずしも1個単位での販売数予測は必要ない場合が多い。予測の幅が90~110の間に収まるぐらいの精度が必要なのか、70~130ぐらいまでの幅が許容範囲なのか、お店の形態や扱っている食材によって条件は変わってくるだろう。もしくは、重要なのは上限の数字で、「明日に関しては最大120まで売り上げが伸びるかもしれないが、少ないなら少ないでそれは問題ない」という予測が必要な店舗もあるだろう。
過去の販売実績とその日の諸条件をデータとして蓄積して、それを活用した予測を繰り返すことで、予測の精度が少しずつ上がってくる。販売予測の作業自体はこだわればこだわるほど相当な手間を要する作業なので、そこにばかりこだわるのもいかがなものかと思うが、予測の精度が上がればそれは後々店舗の収益に大きなプラスとなって跳ね返って来るため、ある程度研究していくのはどのような飲食店でも必要なことだと思われる。

次回、「確実な棚卸=在庫数量の把握」について書いていきたい。

食材在庫管理の特有の課題

「在庫管理」というと、基本的に数量の管理の問題だと思われがちで、食材の在庫管理においては、そこに賞味期限管理という問題が絡んでくる。

在庫というのは商売をする上で必要な資産のことであり、これがなくては商売が成り立たない。すなわち、在庫が切れてしまうと売りたくても売るものがないということになるので、大前提として在庫がなくなってしまうということは許されない。だから、在庫管理はまずは「在庫がなくなってしまうことを避ける」ことが最優先の目的となる。

基本的な考え方として、当日売りたい量の予測というものがあって、その量をある程度上回る数を確保するのが在庫管理の目的である。売りたい量というのはあくまで予測であって、予測が外れてそれ以上に売れてしまうこともあり得るため、通常は予測販売量よりも多少なりとも多い量を確保することになる。特に物販の商売における在庫管理では、欠品を防ぐためにある程度余裕のある在庫を確保するのが通常である。一方で、売り切れを避けるために多めに在庫を持ちすぎると、予測よりも実績の販売数が少なかった時には、在庫が多く残ってしまい、いわゆる過剰在庫の状態になる。過剰在庫の状態になると、倉庫や店舗のスペースが有効活用できなかったり、他の売れ筋の商品を仕入れるスペースがなくなってしまうなど、様々な課題につながる。ただし、賞味期限や消費期限がない製品であって、いずれは売れるものであれば、一時的には問題になるが、発注のペースを見直すことで中長期的には課題を解消させることができる(いつまでたっても売れない製品の過剰在庫は大問題だが、それは別の問題である)。

一方で、食材の場合にはごく一部の例外を除いて、消費期限や賞味期限が設定されている。この期限を過ぎたものは当然ながら販売したり飲食店舗での調理に使うことはできない。かつてはこのような期限管理が非常にルーズに行われていた時代もあったのかもしれないが、食の安全について厳しい管理が求められている現代においては、期限切れの食材を使用したり販売したりすることはまず考えられない。そのようなルーズな対応が明るみに出れば、その企業は世間からの信用を失い大きな代償を払うことになる。

つまり、食材の在庫は設定されている期限内に確実に使い切れる在庫量以下にコントロールしないと、せっかく購入した在庫を使いきれずに廃棄する羽目になり、大きな損失につながる。売るものがなくならないように十分な在庫を確保しつつ、期限切れの廃棄が発生しないように過剰在庫も避ける。このちょうどいいバランスを保つために、食材の発注・在庫管理では非常に繊細なコントロールを求められる。この繊細なコントロールを実現するためには、以下の3つのポイントが重要になる。

①精度の高い販売予測
②確実な棚卸=在庫数量の把握
先入れ先出しの徹底

次回、この3つのポイントについて、自分の経験を交えてもう少し詳しく書いてみたいと思う。

社会人としてのキャリアのスタート ~飲食店での発注・在庫管理の経験~

■思いがけず発注・在庫管理の仕事を任される

1999年の4月に新社会人になってすぐ、自分は飲食店で勤務することになった。最初、飲食店では接客サービスの仕事が中心になると考えていたが、自分が配属された店舗で、たまたま食材の発注担当の社員が自分の配属と同時に不在となってしまい、配属されてすぐに店長から「しばらく発注と在庫管理の仕事の穴埋めをやってくれ」と言われてこの仕事を担当することになった。

接客の仕事であれば、何となくどのようなことをしなければいけないのかイメージがついたが、発注・在庫管理と言われても何をどうしたものがさっぱりわからない。店長からは、近隣の別の店舗に詳しい人がいるから、まずはその人の下でどんな仕事をすればいいのか学んでくるように言われて、言われるがままに発注・在庫管理の修行に出ることになった。

■日々の発注のシビアな経験

発注・在庫管理の仕事は、まず朝の在庫確認から始まる。その当時はいわれるがままに食品庫や冷蔵庫の棚にある食材の箱や個数を数えてカウント用紙に数を転記していたのだが、最初のうちはその作業が何を意味しているのか、どれだけ重要な作業なのかも全くわかっていなかった。この時やっていた仕事はいわゆる「日々の棚卸業務」であり、そのあとの発注業務につながる大切な作業だったわけだが、最初はただただ間違えがないようにカウントすることだけを意識して黙々と作業をしていたように思う。

次に、朝にカウントした在庫数を元にして、翌日納品分の数の発注を行う。発注は当日の在庫数と当日+翌日の出数を予測して、それに対して過不足がないような数を見極めて発注数を決定しないといけない。毎日12時までに翌日納品分の発注入力を済ませないといけないため、午前中はこの作業を間に合わせるために毎日必死だった。
発注数量の決定は、食材によってタイプが異なる。比較的賞味期限が長い食材であれば、それほど気を遣わずに決められた定数を満たすように追加の発注数量を機械的に決めれば良かったが、賞味期限が短い食材(主に生鮮品)は過剰に発注してしまうと消費しきれずに廃棄となってしまう恐れがあり、出数予測とそれに基づく発注数量の決定には非常に神経を使った。それでも予想が外れて賞味期限切れによる廃棄を出してしまったり、逆に出数が伸びて食材が不足してしまうこともしばしば起きてしまった。

社会人になったばかりの自分にとってこの発注作業は非常にプレッシャーが大きい仕事であり、日々胃が痛い思いをしながら作業に取り組んでいたし、休みの日でも前日の自分の発注が問題なかったのかどうかが気になって仕方ない日も多々あった。
しかし、この経験が後々の自分のキャリアの土台になったことは間違いない。社会人のスタートの時点で、適正に在庫を管理することの大切さ、難しさを経験して、それが店舗の商売、引いては最終的に会社全体の業績にどのような影響を与えるのかを感覚的に知ったことが、のちの自分のキャリア形成に大きく役立ったことを思うと、最初にこの業務を務めためぐり合わせに対して今でも感謝している。

『物流・在庫管理』のテーマでブログを始めた理由

■「物流・在庫管理」で検索してみると…

「物流」「在庫管理」と言われてどんなことを思い浮かべるだろうか?今の時代、なんでも教えてくれるGoogle先生に聞いてみると、検索して出てきたのは…。まず多いのが物流系のお仕事を紹介する人材採用系のサイト。それから物流関係の企業がHPに出しているメルマガ的な記事も出てくる。あとは在庫管理システムの会社のHPもちらほら…。

物流関係の企業や在庫管理システムの企業が作っているWebサイトの記事を見ると、さすがにそれを専門としている企業だけあって、主に在庫管理に関する様々な記事が載っている。ただ、このようなWebサイトに掲載されている記事は主に一定規模以上の倉庫を有する、いわゆる「倉庫管理」についての記事が多いように思える。一定規模以上の流通量や倉庫在庫を抱える企業は、このような倉庫在庫を保有して、それを管理するためのシステムを導入して運用するところが多いが、物流・在庫管理に関する悩みを抱えているのは、必ずしもそのような規模の大きい企業ばかりではないはずである。むしろ、規模が小さくて量による効果を期待できない企業ほど、在庫管理や物流に関する悩みは深いのではないだろうか。

 

■在庫管理に関わってきた自分のキャリア

自分は1999年に大学を卒業して社会人になり、ずっと一つの会社に勤めていて、現在は管理職を担っている。転職は一度も経験しておらず、一つの会社の中で複数の職種を経験しているが、20年余りの勤務経験の中で一番長く携わってきたのが、食材関連の調達、在庫管理、物流に関する業務だった。

社会人になって最初の職場は飲食店の現場で接客から売上管理などを行う業務だったが、その時に店舗で使う食材の発注と在庫管理の仕事を任されたのが、自分のキャリアのスタートだった。その後、食材の購買・調達を担う部署に移動し、全社の食材の購買を担当することになった。主に肉類の購買を担当していたが、それ以外にも飲料や製菓の購買にかかわっている時期もあった。しばらくは食材の購買担当の時期が続いたが、30代の後半になって、購買する食材の保管を委託していた倉庫が撤退することになり、新たな食材倉庫が必要になったため、その新倉庫の立上げのプロジェクトを担当することになった。

長年物流・在庫管理の様々な業務を経験する中で、たくさんのトラブルや失敗も経験してきた。
店舗での発注を担当していた時には、発注量の読みに失敗して食材の材料が足りなくなってしまい、結果的にメニューが販売できなくなったこともあるし、その逆に食材を過剰に発注しすぎて大量の賞味期限切れを出してしまったこともある。全社の購買担当の時には、当然一店舗の発注量とは桁違いのボリュームを扱うことになり、在庫管理に失敗した時には1品で数百万円分の廃棄を出してしまうという大失敗も経験している。
そういう失敗も経験しながら、適切な発注・在庫管理をするための自分なりのやり方を確立してきた。

自分はこれまでのキャリアを通して、食材関連の発注・在庫管理や購買・調達、そして倉庫業務についての知識・経験を積み上げてきたという自負がある。また、店舗レベルの発注から、ものによっては年間契約が必要な大規模な購買、そしてそれらを保管する倉庫運営という、サプライチェーンの川上から川下までを担当者として一通り経験しているというのは、かなり珍しいキャリアだと思う。この経験を生かして、物流・在庫管理について悩みを抱えている中小の店舗や倉庫、特に飲食関連の組織でこれらの業務を担当している人たちに向けて、このブログを通して情報発信をしていきたい。